席に座ってる。
い、一応聞いてみようかな?
うん。知らないより、聞いた方がいい。
その席の前に来て話かけようとするも、勇気が出ないで相手をまじまじと見るだけになっている雅。
あぁ〜やっぱり違うよね?
髪の毛の色、これ、キャラメルブロンドだ。
こんな髪色じゃなかったし、黒い髪でツヤツヤしてて。
とにかくこの人は私の知っている稲葉くんじゃない!うん、絶対そう。
「おい」
「は、はい…!」
突然話しかけられて肩がビクッとなってしまった雅。ゆっくり振り返るとさっきまで見ていた男子がこちらを不機嫌そうに見ていた。
「さっきから何見てんだよ!?」
頬杖をついて雅を睨みつける。怖くなった雅はプルプルと震えてその彼と目を合わせた。
「す、すいません!…あの〜お名前聞いてもいいですか?名前を確認したら知っている人と同じだったので…」
またキッと睨んで雅に威嚇する彼。あまりの怖さにヒッと声をあげてしまいそうな程だ。
まずい怒らせちゃった。
そうだよね。
用事もないのにジロジロと見ていたら変な人と思われちゃうよね。
「ちっ。稲葉 渉だ。これでいいか?」
「えっ!?」
驚いた雅は手で口を覆う仕草をした。目は見開き、口角が上がるのを必死にこらえる。
ほ、ほんとに稲葉くんなの?
あの真面目で優しかった稲葉くん?!
「なんだよ!?言ってたんだからお前も名前言えよ!」
「は、はい...!えっと、小鳥遊、雅です...」
迫力負けしてつい、敬語が出てしまった。
すると稲葉は何かを思い出したのか目を丸くした。
「小鳥遊って、小学生の時に転校した?」
思い出してくれたんだ...!
「そうだよ稲葉くん。私、この町に帰ってきたんだ!」
稲葉は当然立ち上がり、雅の周りを一周してジロジロと見始めた。
え、何?なんでそんなにジロジロと見てるのよ!?顔だけじゃなくて身体まで。
まるで舐めるかのように見続ける。
そして稲葉はフッと笑い、衝撃的な言葉を雅に浴びせた。
「お前、すげー地味だな(笑)」
え?えぇーー!?
突然私のことを見始めたと思ったら、地味って…。
「あんたなんか…」
次第に身体がプルプル震え始めた。これは恐怖ではなく、怒り。
「なんだ?」
顔を上げた雅はさっき稲葉に睨まれた時と同じ、鋭い目付きをする。
「大っ嫌いだー!」
クラスの皆が驚くほどの大きな声。
雅は叫んだ後、席についてスマホをいじり始めた。
さよなら、私の初恋…。
六年も経てば人の見た目は変わる。
それを実感することが出来た。
いいのか、悪いのか……。
入学式が終わっても稲葉に言われたことが頭から離れない。
なんなのよ。再開したら普通、「久しぶり、元気にしてた?」の言葉を返すでしょ!?なのにアイツは……「地味だな」。
じゃ、ないわよ!?昔の稲葉くんならそんな可愛げのないことなんて言わなかった!
人ってなんで短い時間で変わるのよ……。私の初恋に上書きするかのように、性格が悪くなっていたし。
あの可愛いイメージが一瞬で悪魔にすり変わったようなそんな感覚だ。
気を取り直して放課後は部活動を決めるためにグランドに向かった。
なんの部活に入ろうかな。
春休みに食べ過ぎちゃったからスポーツをして体型維持!
文化系に入って自分の内面を磨く。
ーーこんな外見だから文化系の方がいいか。
またいや思いしたくないし。
よし。
そうと決まったら文化系の部活を見学しに行こう。
まずは吹奏楽部。
トランペット吹いてみたかったんだよね。
ぶおーーー〜ぼふっ!
あれ?
上手くならない。
もう一度…!
ぶぼっ!ぼぼぼぼっ!!!ぼふふふ。
あれれ?
動画サイトで聴いた時とは違う音が鳴る。
「あ、あの〜」
吹奏楽部の先輩が引きつった顔をして雅に話しかけてきた。
キョトンとしている雅は周りの人が耳を塞いでいることに気づかないでいた。
「あなたには吹奏楽はちょっと厳しいかな?あはは…」
ガーン
もしかして私、凄く下手なの…?
よく見れば皆この先輩と同じように引きつった顔をしている。
稲葉くんに『地味』と言われた時よりは傷つかなかったけどさ。
クヨクヨしてもしょうがない。次の部活に行こう。
料理部。
今日のメニューはハンバーグ。
丁度お腹すいてたんだ。
ラッキー!
っと思ったら、なんか黒い物体が出来てしまった…。
た、食べられるよね??
一口食べて雅はその不味さに悶絶する。
ま、不味い…。
おかしいなレシピ通りに作ったのに。
しかも先輩と一緒にだよ?
何か間違ったのかな?
「えっと、小鳥遊さん?」
「はい」
「このハンバーグの腕だと私たちにはその...部活に入部したとしてもとても面倒見きれないわ。他の部活を探した方が...」
み、見込みゼロですか…。
ていうか、私って料理の才能もないんだ。
部長さんがここまで言うということは、料理の腕も上がらなさそう。
「はぁ……」
雅はそれからも沢山の文化系の部活に体験入部したがどれも上手くいかず、ついには文化系最後の部活であるパソコン部でプログラミングの体験をしたがコンピュータは全て動かなくなってしまった。
「キミは部を潰すつもりか……」
「いえ、そんなつもりじゃ…」
パソコン部顧問の先生は呆れた口でそう雅に言った。
これで春歌高校の文化系の部活全てから入部を拒否された。
雅はもう一度グラウンドに行き、どこか入れる部活はないか探しに行くことにした。
残っているのはやっぱり運動系…。
いっそ事帰宅部にするか、それとも自分で作るか。
でもどんな部活を?
それが決まらないと部活を作ることが出来ない。
「おい小鳥遊」
「ゲッ!稲葉くん」
なんでコイツがここにいるのよ…!もしかしてまた冷やかしにきたの?
「『ゲッ』ってことはないだろ。部活探しか?何に入るんだ?」
「ふん。関係ないでしょ」
「なんだ?さっき言ったことまだ気にしてるのか?」
気にしてて悪いですか?
稲葉くんに言われたから余計気にするんですけど。
「本当に地味だったんだから仕方ないだろ?てかそのメガネ取ればいいのに」
稲葉の手が雅のメガネに伸びてきた。驚いた雅はその手を叩く。
「やめて…!私はこれでいいの。地味のままでいたいの…!」