【完】再会した初恋の彼はチャラくて、イジワルで、ときどき優しい

床に落ちるほどの汗をタオルで拭いて、水分補給をする稲葉。





その表情は疲れではなく、試合に勝って満足している顔だ。






「あぁ。今日の試合は入部してから最高にいい試合だった。レギュラーになったらこれ以上の試合が待っているかと思うと今からワクワクする…!」






子供みたいに次を楽しみにしている稲葉くんがこの日はちょっと可愛く見えた。





自信に満ちた稲葉の様子を見て花火絵はひとつのアドバイスを試合の最後に残す。





「お前の実力じゃまだまだレギュラーは無理じゃ。今日は実力を出せてもお主はまだ恐怖心がある。まずはそこを完全に克服することじゃな」






「恐怖心か…」





恐怖心は誰にでもあって乗り越えるのが難しいものだけど、今日の稲葉くんはそれに打ち勝つことができた。




「稲葉くんならそれをきっと乗り越えられるよ。私もサポートしていくから、これからも頑張っていこう!」




この先だってそれに打ち勝つことができるよ絶対。
「おう」





互いの拳を近づけてこれからの誓いを立てた。






試合が終わったら午後には帰るんだよな。あっという間だった。






そうだ告白。後で稲葉くんをこっそり呼び出さないと。てかどうやって呼びだそう。






スマホで連絡…私、稲葉くんの連絡先知らなかったんだ。






「海氷の奴ら最初の余裕な顔がなくなってるな」






水谷の様子が気になり、ちらっと海氷の方に目を向けた。






水谷くんは…もういない。これでもう、会うことはないんだよね?
「海氷とは大会で必ずあたることになる。それに、合宿も毎年一緒だ」





雅の心を読んでいるかのように稲葉が話し出した。





「そうか。ならまた会うことになるんだね……」






その時のことを考えると不安で仕方ない。水谷くんとはもう会いたくないのに、また会うことになるなんて。





部活はようやく楽しくなってきたし、目標ができたから離れたくない。






「大丈夫だ。あいつがお前に何かするようなら、俺は小鳥遊を守る。絶対な…!」
稲葉の大きな手が雅の頭の上に優しく置かれた。すぐにその手は離れたが、その感触はまだ残っていた。





「稲葉くんの手ってこんなに大きかったんだ」






「ん?何か言ったか?」





「な、何でもない…!早く準備してコテージに戻ろう。一時間後にはバスに乗って帰るんだから」






グイグイと稲葉の背中を押して競技場を出ていった。






「おーい水谷。今日は惜しかったな」






海氷の三年生の先輩が試合に負けて落ち込んでいる水谷を励ましにきた。






「次勝てばいいんですよ。また指導お願いします」






丁寧に頭を下げた水谷は一人、荷物を持って帰りのバスに乗り込む。






「次は絶対あいつを倒してやる。このまま負けるとか俺はそんなの許さねぇ」
着替えと日用品とあとはゴールデンウィークの宿題。これで全てトランクに入った。





あとは手荷物。ティッシュとハンカチとスマホ、試合のノートにえーと、小銭入れ。






よし、準備万端!あとはお手洗いに行ってバスに乗るだけ。






「おーい小鳥遊終わったか?」






「ちょっと、ノックくらいしてよね」





全く。そこは成長してないなぁ稲葉くんは。





「誰もいないんだからいいだろ」






私がいるのよ!なんですか!?私なら急に入ってきても『キャー』とか言われない思ったの!?






「何か用?」





ほんとは声を大にして言いたいけど、今日試合を頑張ったからあまり言いたくない。





けどやっぱり言いたくなるほどのことをされていると思うとちょっとイライラしてきた…。





私の方が用事あるんだけど。手間がはぶけたというか、チャンスというか。
「ご褒美」




「はい?」





今なんて?ご褒美?






なんでご褒美なのか理解できない雅の頭の上には?が沢山浮かぶ。





「試合に勝ったご褒美貰いに来た」





「そんな約束してません」






水谷くんに勝っただけで私的には嬉しいんだけど。稲葉くんとはご褒美の約束なんてしてないし。





「約束してないけど欲しい」







子供じゃないんだからそんな子供がお菓子ねだるような可愛らしい目で見つめないで!!





ご褒美っていったって、何をあげればいいのさ!?





「じゃあ購買で何か奢ってあげる。それでいい?」





それくらいなら私にだって出来ることだし。





「食い物はいい。俺は……」





「きゃ!」




「大声出すな」





仕方ないでしょ!?急に後ろから抱きつかれたら声も出したくなるよ。
「離して」




「やだ」




やだって…やっぱり子供みたい。さっきまではカッコイイなって思ってたのに。ガッカリしちゃうな。





逃げようとする雅だが、稲葉はそんな雅を抱きしめている腕に更に力を入れて離れないようにした。






こんなに近かったら心臓の音聞かれちゃうよ。





振り向きたいけど、今振り向いたら顔が赤いのバレちゃうし。






かと言ってもこの状態も耐えられない。
「耳真っ赤。照れてる?」




「うるさい…!」




照れてますけど何?好きな人に抱きしめられて赤くならない子はいません!




何をしたいのよ稲葉くんは。





「お前の耳、小さくて可愛いな。触ってもいいか?」





「ダメ!それは絶対にやめて!!」





耳が弱いの知っているからこんなイジワル言ってるんだ。時々入る稲葉くんのイタズラスイッチは何?!





パク!




耳から伝達された感覚は雅の身体が電気を走ったみたいに飛びあがらせる。




「やっ…!何してるのよ!?」




い、いまいまま…!!耳をパクって!食べた!!?





「触ったらダメって言ったから食べてみた」






何故それを当たり前みたいな言い方で言うのよ!?


「変なことしないでよ。これ以上したら怒るよ?」




もう結構怒ってるんだけど。全然動じないんだから。




「ふーん。なら頑張って怒ってみろ」





「え?…ちょっと!何やって…んっ」





顎に手をかけて自分の方に向いた唇に少し強引に触れる。





「ほら、怒ってみろよ?俺の口を退けれるもんならな」





「いい加減に…んんっ」





まだ付き合ってもないのになんでキスなんてするのよ。意味わかんない。

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