「ど、どうして初めに婚約者だって教えてくれなかったんですか⋯!」
その答えを聞かなければこのモヤモヤは晴れない気がした。
すると千鶴さんは一度考える素振りをした後、あたしと出会ってからの事を教えてくれた。
「あの日Trustで会ったのは本当に偶然だった。グラスが割れた騒ぎが起きた時に雪乃を見てすぐに気づいた。婚約者として写真を見た事があったからな」
「そうだったんですね⋯」
「婚約者だと分かってどんな奴なのか見てみようと思った」
「だから、興味があるとあの時言ったんですね」
ソファー席に連れて行かれた時千鶴さんは確かにそう言ったんだ。
「ああ。すぐに婚約者だって言わなかった理由は特にない。その頃は別に婚約とかどうでも良かったし、断ろうと思えば断れたから」
「⋯⋯」
「けど、雪乃の事をどんどん知っていく内に惹かれている自分に気がついたんだ」
「っ」
「雪乃の事が好きだって気づいた時には婚約なんて破棄する事に決めた。雪乃がまだ婚約の話を知らない事をいい事に」
「それは⋯、あの日言っていた理由と同じですか⋯?」
星空を見せてくれた日、お兄さんの話を聞いた。
好きな人と一緒になりたい。とも。