「あたし⋯千鶴さんが婚約者だなんて知らなかったんです。それどころか婚約者がいた事すら知らなくて、婚約者がいた事、その話がなくなった事を同時に知りました」
「⋯」
「だから千鶴さんが婚約者だと知ってすごく驚きました。それと同時に⋯、破棄になったと聞いて⋯⋯、」
「⋯」
「千鶴さん側から白紙にしたと聞いて⋯すごく、傷ついたんです⋯。ショックで、悲しくて⋯」
そう言った瞬間千鶴さんの目が僅かに大きくなった。
「どうして千鶴さんは白紙に戻したんだろうって。⋯あたしの事を好きじゃないからっていうのは分かってるんです。分かってるんですけどどうしたって悲しくて⋯苦しくて辛くて⋯」
「⋯」
「自分勝手に千鶴さんに怒鳴って⋯、逃げたんです」
逢いに来てくれた千鶴さんが分からなくて⋯
ただただ苦しかったあの日、あたしは千鶴さんから逃げたんだ。
「ごめんなさい。でも、もう逃げません」
答えはわかってる。
分かってる。
それでも────────。