ただの男なら、こんなこと絶対に了承しなかった。相手がレイヤくんだから、私は断りきれなかったんだ。



「なんでも? じゃあ、目の前で歌ってくれたり……とか?」



 レイヤくんを匿うなんてリスクのあることをするのだから、無理なお願いをしてみてももいいだろうと思い、そう言ってみた。



「歌? いいよ、いくらでも歌うよ」



 ひとりのためだけに歌えないと言われるかと思ったのに、意外とすんなり許可が貰えた。

 まさか、こんな簡単に了承してもらえるとは――。



「こういう時、キスしてとか言わないのがいいよね。さすがお姉さん!」



 それは褒められているのだろうか……。それとも、そう言われたことがあるのだろうか……。レイヤくんなら、言われた経験があると言われても不思議ではない。



「ほら、早く帰ろう? 家はどこ?」



 レイヤくんはとても楽しそうに私の腕を握って、階段を登り始めた。私はもちろん、握られた手を見て放心状態だ。



「レイヤくんの手が……手が……」