「親から見たおれは、きっとまだひとりでは何もできない手のかかる子どもだと思ってるし、幼稚園に通ってるくらいの小さい子がおれを見たら大人のひとりだと思うんじゃない」


セナの声に耳を傾ける。


「ウルがおれのことをまだ子どもだと思うように、おれもウルのこと大人だとは思ってない。でも、子どもだとも思ってない」



子どもでも大人でもないなら私はなんなんだ。ほんとうに何者なんだ。疑問を加速させていれば、新たに言葉を紡ごうとしたセナの息を吸う音が聞こえた。それくらい、この辺りは静かだ。


セナのほうに顔を向ければ、セナもまたこちらを見る。



「子どもか大人か判断するのはその人自身で、曖昧なんだと思う」


少し残念だった。結局私は子どもなのか大人なのかわからなかった。でも、なぜか腑に落ちた。これから先、セナに投げかけた質問を他の人にしても、たぶん求めている答えは一生出てこないと思った。セナ以上に納得する答えを出してくれる人はいないと思った。今までの疑問が空気中に分散されるように、私自身も解放された気がする。



「子どもと大人の境界線ってはっきり目に見えるわけでもないし曖昧だけどさ、その曖昧な時間ってほんの一瞬な気がするんだよね」

「…………一瞬」


セナの言葉の一部を復唱すれば、「そう」とセナは相槌をうつ。