ぽつりと零したセナは私と同じように空を見上げていた。いつものように腕を頭の下に敷いて枕代わりにしている。

難しい単語というわけでもない。それなのにその意味を正確に説明し、答えることができない。正解がわからない。


スーツを着た会社員を見たら大人だと思う。スーパーの店員さんを見ても大人だと思う。制服を着た学生を見ると子どもだと思う。でも、同じ人が制服でなくて私服を身に纏っていたら、髪を巻いていたら。もしかしたら私はその人を大人だと認識するのかもしれない。




「ウルは、おれのこと大人だと思う?」

「ううん、子どもだと思う」

「どうして?」


「え? どうしてだろう」


最初の質問にはすぐに答えることができたのに、理由を問われると途端に口が閉じてしまう。どうしてセナを子どもだと判断したのか謎だ。進路希望用紙もきちんと提出するし、考え方だって明らかに私より大人なはずなのに、なぜその答えに辿り着いたのかが不思議だ。



「わかんない?」

うん、と頷いた。暗くてお互いの顔は見えないから、私が首肯したことに気づかないかもしれないと思ったけれど、セナは「そっか」と静かに呟いた。

わからない。どれだけ考えてもわからないような気がする。




「これはおれの意見で、もちろんこれが正しいわけじゃないけど、」

少しの沈黙後、冷たい空気にセナの透き通った声が混ざった。