「……うん。ホントだよ。俺、卒業したらオーストラリアに行くことにした」
しっかりとわたしを見つめ返して、伝えてくれる祥平。
その目には、これからの未来への決意の色が浮かんでいる。
「どこで聞いたの?」
「どこでって……みんな噂してたよ」
「……そうか」
様子がおかしい祥平。
だけど、わたしにはまだ言うべきことが残ってる。
なるべく彼を傷つけぬように、そっと告げなければ。
「あのさ、わた「別れよう」」
「え……?」
見上げると、そこには今にも泣き出しそうな祥平の顔があった。
その瞬間、彼が何を言ったのかを理解した。
「七瀬と距離を置きたいんだ」
「……そう」
「ずっと考えてた。留学はもう決まったけど、遠距離になっても七瀬の気持ちを繋ぎ止められる自信がなかったんだ」
別れを切り出すことに誰よりも傷つくであろう、優しい彼に言わせてしまったことが、何よりも悔しい。
「うん。わたしもその方がいいと思う」
わたしはそう言うしかなかった。
溢れそうになる雫をこらえるために、必死に瞬きをしながら。
「またね、七瀬」
「うん。贈ってくれてありがとう、立花先輩」
“立花先輩”と呼ばれて、祥平がハッとしたように私を見る。
それは、わたしが祥平に告白して付き合う前の呼び名だ。
そしてわたしは石段を昇り、家の門を閉じる。
でもそこで、手を上げかけてやめた。
彼女じゃなくても、これは言っていいよね?
「受験……頑張ってね!」
もう彼氏彼女じゃなくなったから、部活も違えばクラスの縦割りも違う、ただの先輩後輩になってしまう。
だから、応援の気持ちを伝えられるのも今日が最後。
暗がりの辺りに響いた声に、立花先輩は驚いている。
だけど向き直って、
「おう!七瀬も頑張れよ!来年っ!」
そうして最後までキラキラした笑顔を見せてくれる立花先輩は、やっぱりわたしの大好きな人。
付き合った時間は半年と短かったけど、わたしに宝物になるような恋をくれてありがとう。
遠ざかっていく後ろ姿に、いつまでも手を振っていた。