来栖先輩と話していて、わたしは意外にも心が弾むのを感じていた。

来栖先輩のことを愛しているというわけじゃない。

これはあくまでも仕事のひとつだと割り切っている。

ただ、なんていうか、これが普通の男女の会話なんだなと実感するところがあった。

海斗くんとも何度もデートをしたことはあるけれど、過去のことがあっていつも心を制御していた気がする。

わたしみたいな女にデートを楽しむような権利はない、そんな鍵を知らないうちにかけていたのだと思う。

「これから、どうする?芹沢さんが行きたいところがあれば行くけど」

「えっと、とくにはないです」

「そう?遠慮なんてしなくていいけど」

「その辺を散歩するだけでもいいですよ。お金をかけることがすべてではないですから」

わたしは自分に言い聞かせる。

デートを楽しもうとしてはだめ。

わたしはもうすぐ死ぬ。このデートはあくまでも演出の一部に過ぎない。

気持ちを引き締めないと。