そうじゃなければ、麗も一歩踏み出そうとはしないから。

「ほんとなんですか、それ?」

わたしは神妙な感じでうなずく。

「中学から付き合ってきて、なんか、これでいいのかなって思うようになったの。惰性的っていうか、海斗くんしか知らない人生ってつまらないなって思い始めたとき、その人が目の前に現れて」

「橘先輩よりも魅力的な人って、なかなかいないですよね。相手は誰なんですか?」

「それは秘密。まだ自分の気持ちは打ち明けてないから」

「もしかして、サッカー部の誰か、ということですか?」

「だから秘密だって」

「なら、答えようがないですよ。相手の情報がなかったら、的確なアドバイスもできませんし」

「こういう経験、麗にはないの?」

「ありませんよ。これまで誰とも付き合ったことがないので」

麗の口調は素っ気ない。

でも、それはこの話題に興味がないからじゃなく、むしろ逆。