「誰なの?教えてよ?」

それまで部員の練習に視線を注いでいた麗が、こちらに顔を向けた。

「今日はやけに積極的ですよね、莉子先輩。なにかありましたか?」

「……」

ここでためを作る。

深刻に悩んでそうな表情をあえて浮かべる。

「わたしね、麗に相談しようかと思ってたんだ」

「相談?なんのですか?」

「わたしね、実は海斗くんと別れようかと思ってるんだよね」

「え?」

「他に好きな人がいるの。でも、それを打ち明けることができなくて、どうしたらいいのか、麗に相談したいと思ってたんだけれど」

もちろん、これは嘘。

麗の心を海斗くんへと向けるための作戦のひとつにすぎない。

短期間で麗と海斗くんをくっつけるなら、まずはわたしが別れるという意思をしっかりと示さないといけない。