あの事故によって海斗くんの夢が断たれなければ、いまのわたしももっとなにかのことに夢中になっていたのかもしれない。

「歌手とか目指したらどうだ?莉子は結構歌はうまいだろ」

「その程度でなれる世界じゃないよ」

わたしは歌が好きだった。

小学生のころはよくテレビにアイドルなんかが出ているとダンスを交えて歌ったりした。

「なら、一緒に教師を目指すか?おれなんかよりも、莉子のほうがよっぽど教師に向いていると思うぞ」

「そう?どの辺が?」

「優しいところ。おれが莉子のなかで一番好きなところだから」

もう、これは素直に受け止めよう。

これまでのわたしだったら、きっとそんなはずない、海斗くんの夢を奪ったわたしが優しいだなんてあり得ないとか、そんなふうに否定的にとらえていた。