わたしは混乱した。

どうしてこんなことになっているのか。

「じゃあ、そのリュックは?」

「これはべつに、いつも使ってるやつで。飲み物とか入れておくだけで」

「ここに来た理由は?」

「SNSに写真を上げようかと思って」

「SNS?」

「ずっと前から廃虚ブームって言われてるんだ。SNSに寂れた場所をのせるのがはやっていて、ここなんかちょうどいいかなっと思って来たんだけど」

うっすらと、そんなブームがあることは耳にしたことがある。

でも、こんな偶然ある?

爆発事件の現場に、別の誰かが数日前に訪ねてくるなんて。

「普通に考えたらあり得ない。爆発の現場は三階のこの部屋で、ピンポイントでそこを別人が数日前に訪れた?」

「あの、ぼく、もう帰ってもいいかな」

「どうしてここを選んだの?」

「え?まあ、なんとなくだけど。地上から少し離れた部屋がいいかなと思っただけで」

「加々美春樹という名前に聞き覚えは?」

「一度も聞いたことないけど」

佐伯さんは嘘をついているようには見えなかった。