そう、例え新田さんの恋愛観が壊れていて、セフレが沢山いたとしてもだ。
 新田さんは私に対して、そういう行為を一度も迫ることがなかった。


 何の得にもならないのにただ話を聞いてくれた、会えば声を掛けてくれた。
 新田さんといると、心から笑えた。私の心の支えになってくれていた。
 だからこそ、どうしても許せない。
 
 
 ぐすんぐすんと泣く私を見つめ、フリーズしていた新田さんはやっと意識を取り戻したのか、深く深く溜息をついた。
 目尻が優しく下がったその表情は、これまで見た新田さんの表情の中で一番優しいものだ。



「なんだよ香苗は、そんなことで泣いてんのかよ」
「悪いですか?」
「悪くない。サイコー」
「……サイコー?」
「だって、これまではあのクズの為に泣いてたのに。今は俺の為に泣いてんだろ」



 新田さんの節くれ立った親指が、私の目尻の涙を拭う。
 その手付きがどうしようもなく優しくて、胸がとくりと鳴った。