李月side
転売ヤーを殴った女がいた。
暇つぶしに変装して人混みに潜り混んでいた俺のすぐ近く、
ライブへの興奮の高まりを表すかのようにざわざわと活気づいていた会場の空気を一瞬にして凍らせた。
"バコーーーン!"斬新な音色だったと思う。
地獄みたいな空気、サイレンの音、悲鳴、息を飲む人々。
普通の人とかいう概念であれば真逆に受け取るだろうその新鮮な風が楽しくて
つまんないこと続きで暇していた俺に興味を持たせるには十分な出来事だった。
その日のライブ、メンバーは少し気まずそうだったが俺はとても楽しかった。
そんな俺たちの様子を見てファンは
"李月くんはあんなことがあってもやっぱりファンやメンバーの為に明るく振るまってくれている"
なんて都合のいい噂を流す。
実際そんなことは無いが株が上がったなら良かったな
なんて思いながら、俺はウキウキな足取りで会場を後にした。