父の話があまりにも酷なものだった。
治験を受けるということはある程度のリスクは伴い、今以上に辛い闘病生活になる可能性が高い。
そうなれば、父の負担が増えることは避けられない。
父のことだから、毎日仕事を早くに切り上げて、自分の時間を潰してまで私のために時間を費やすだろう。
食事は毎日スーパーの総菜で、睡眠時間を削ってまで別の仕事や私の治療についての情報収集。
今なお、父の生活の中心は私なのだから、治験を受けた場合の変わりようなんて考えるまでもない。
私にとっては、金銭面よりも父の身体のほうが心配だった。
とはいえ、私にも希望の光があるならそれにしがみつきたいという思いはある。
なぜなら、まだこの世界に居なければならない理由があるからだ。
一番の理由は父の存在だ。
父は、最愛の妻を失っているうえに、父自身が一人っ子で、高校生の時に両親を事故で失っているために、私以外に家族が居ないのだ。
だからこそ、私が少しでも長く命を燃やすことで、父を孤独から守りたかった。
病気で周りを苦しめてばかりの私が唯一できる親孝行はこれしかないと思った。
だから、それはもう私一人の問題ではなかったのだ。
これまで何度も入退院を繰り返し、その度に意味のない治療に耐えてきた。
勿論、幾度となく絶望のどん底に突き落とされて、死を選ぼうとする程に苦しんだ過去があったから、治験を選ぶことでまた同じ思いをするのは考えるだけでもこの上ない苦痛だった。
それでも、どんなリスクを背負おうと私は生きなければならないような気がした。
たとえ、それが自分の意志を犠牲にすることになっても。