その夜、夕食後に父に呼び止められた私は、色違いのティーカップにミルクティーを作った。
ひとつを父の前に置き、私も向かいの椅子に座る。
ありがとう、と言う父の顔は明らかに引きつっている。
父は言うタイミングを掴めずにいるのか、自分の口から言うのがつらいのか、無言を貫いていた。
おそらく両者が原因であることを予測した私は、父が話し始めるタイミングをじっと待った。
「で、話って?」
それから、しばらく続いた沈黙に耐え切れなくなったのは私のほうで、引き出すかのように先に口を開いた。
「今日の先生との話で治験を進められたんだ。蒼来はどうしたい?」
思ってもみなかったことに一時的に言葉を失うも、父が苦しみながらも伝えてくれたことに対してのせめてもの返しを、と思い、平然を繕った。
「そっか。私はどっちでもいいよ」
「そうか。でも、辛い思いをするのは蒼来だからしっかり考えてほしい。お金のことなら気にしないでいいから」
「分かった」
返事をした後で、何も持たず家を出た。
一旦、落ち着いた場所に行き、一人で考えたかった。
夏真っ只中の今日の夜は、風は絶えていて蒸し暑い。
半袖に長ズボンといった最低限の薄着で出てきたとはいえ、私からすればサウナ並みの状況に吸う息が苦しくなる。
だが、そんなことは重要な話ではなかったからか、直後には考えることもなくなった。
目的無くかすかな街灯だけを頼りに進んでいくと、気付いた時には自宅近くの公園にいた。
日中は子供たちで賑わうその場所に、案の定人の気配はなく、返って安心した。
やっと一人になれた、と思わず呟く。
そして、真っ先にブランコに座って頭を抱えた。