「む、睦月のこと……知りたい、」
ピクリと、眉が上がった。
どうしてその名前を知ってるの?
知ってるよ、だっていっぱい聞いたもん。
なんで知りたいの?
さっちゃんのこと、好きだから。
そんな質疑応答を交わる視線だけで済ませて、伸ばした手でさっちゃんの髪を撫でる。
「…五十嵐パイセンとの過去も…知りたい」
「……五十嵐パイセンってなに」
「え、五十嵐 侑李のこと」
「…新しいあだ名付けマシーンだね、ミオは」
そんな異名は要りません。
嬉しくないです、なんか、嬉しくないんでやめてください。
ねぇさっちゃん。
私、五十嵐 侑李はさっちゃんのこと、嫌いなんかじゃないと思う。
「睦月は───…僕と侑李の2歳年下の弟で、すごく元気でやんちゃでね。僕の真逆タイプの弟だったよ」
「…うん」
「僕よりも侑李に懐いてた。でも僕は…そんな2人を見るのも好きだったから」
それまで隠されていた過去。
睦月という少年が今も生きていたら、私と同じ高校1年生だった。
きっと花ノ宮に通って、颯とも仲が良くて、私と颯、睦月の3人でいつも賑やかに過ごしてたんじゃないかなって思う。