プロローグ

 僕は勢いよく家の扉を開けた。
 貧乏な僕の家の扉は、少しの力でもすぐに外れてしまう。
 それを忘れるほどに僕は今興奮していた。
「あんた!!!家の扉は壊れやすいんだから!!!」
 母親に怒られたが、そんなことも気にならない程の興奮を抱えたまま、僕は母親に抱き着く。
「母さん!母さん!」
 僕は晩御飯の準備をしている母親に抱き着いたまま飛び跳ねる。
「何をそんなに慌ててるのよ?危ないよ!」
「僕、旅に出る!!!魔王を倒すんだ!」
 僕の言葉を聞いて母親はピタリと動きを止めた。
「あははは!勇者様になろうってか!」
「そう!僕が魔王を倒すんだ!」
 興奮冷めやまぬ僕を見て、母親は僕の頭に手を置いた。
「前歯の生えてないあんたには無理だ。止めなさい」
 それだけ言うと母親は再度晩御飯の準備に戻った。
 母親に全く相手にされなかった僕は、明らかに落ち込んだ姿で母親にアピールしながら自分の部屋に戻った。

 僕が魔王を倒すのは無理なのかな……。
 お母さんは、前歯の生えていない僕には無理と言った。
 前歯が生えたら魔王を倒す権利を得られるのかもしれない!
 棚の上に飾ってある写真立てを見て僕は決意した。
 妹の仇は必ず僕が打つ。