「緒方ー。一緒帰ろうぜ!」

「断る。ちょっと用事あんだよ」


ぐるぐる考えていると、後ろから会話が聞こえた。

振り向かなくたって分かる。森崎君と緒方君だ。

用事って、私のことかな?だとしたら無視するの悪いよね……。

てか二人って仲いいんだ。意外。


「詩織ー。帰ろう?」

「あ、ごめん楓。ちょっと用事思い出したから…」

「初日に用事?美術部のなんか?」

「そんなとこ。ごめんね!本当に」

「いいよいいよ。明日は一緒帰ろー」

「うん!ありがと」

「ん。じゃーねー」


楓との約束を断ってまた席に座り直したけど、どうにも手持ち無沙汰でまた本を読む。

「おい」

「?!はい!」


気がつけば教室にはもう二人しか残っていなかった。

熱中するとすぐに時間を忘れる癖、どうにかしないとなぁ。


「あの、私に用って?」

ほぼ初対面の男子と二人きりの状況に緊張しながら、緒方君に向き合った。

二人しかいない空間で、沈黙が続く。

真っ直ぐにこちらを見てくる眼差しに、居心地が悪くて小さく視線を逸らしたとき。



「お前が好きだ。付き合ってくれ」

……え?