「しおりー。先輩が用事あるって!」

次の授業で当てられそうな問題の見直しを梓としていたら、廊下から声がかかった。

(先輩ってことは、美術部の誰かかな?)

声をかけてくれた子にお礼を言ってから廊下に出ると、部長がいたので急いで近寄る。


「あ、詩織さん」

「筒井先輩!今日はどうしたんですか?」

「ちょっと連絡することがあったんですけど、さっき生物だったので帰りに寄っちゃいました」


メール打つの面倒で...。


と言いながら照れたように首をさする先輩に思わず笑ってしまう。

先輩はパソコンは得意なのに、何故かフリック入力になった途端異様に操作が遅くなるのだ。

一度キーボード操作を勧めてみたものの、今度は細かいボタンを押すのが難しかったのか、速さは出ても押し間違いが多くなって文章が解読不能になるという始末だった。

結果、基本的に急ぎの連絡はわざわざ教室まで来てくれることが多い。


「それでですね。今日の放課後なんですが、美術部体験の最終確認がしたくて。良ければ手伝ってもらえないかなと」

「もちろんです!昼休みも作業します?」

「いや、放課後だけで終わる作業量だから大丈夫だよ。そういえば、バスケの方は順調ですか?」

「いやぁ……長年の運動音痴はそう簡単に克服できるものじゃないですね。もう色んなところが筋肉痛になるだけでなかなか…って感じです」

「分かります。僕も去年はサッカーで痛い目をみました。今年は何故か将棋に参加することが勝手に決められてたので楽ですが」

「そ、それはそれで悲しいような…」

「まぁ、適材適所というやつです。3年生は2年からクラス持ち上がりだから、苦手なことがわかってもらえてて楽ですよ。今年までの辛抱ですから、頑張ってくださいね」

「はい!じゃあ今日はHR終わり次第美術室集合で大丈夫ですか?」

「はい。お願いします」

「では、また放課後」


手を振る先輩に会釈で返して、席に戻る。


「先輩なんて?」

「体験入部の準備頼まれただけだよ」

「やっぱ美術部も準備とかあるんだ」

「うん、今年は少しでも興味持ってもらうためにキャンドル作ることにしたんだけど、地味に材料の準備とか大変で」

「え、キャンドルって自分で作れるの?」

「一応。固まるまでに2時間くらいかかるから、作ったら後日取りに来てねってする予定なんだ」

「自然と2回部室に訪れさせるなんて...考えたね」

「でしょ?わ、チャイム!」


本鈴の音に慌てて席に戻る。バタバタと教科書を準備しながら先生を待った。