---------------------------------------------
「ほら、帰るぞ」

「うん」


用具入れの前にいる緒方くんが、鍵を締めながら声をかけてくる。

それに返事をしながらゆっくり起き上がった。

しばらく休めたお陰か、今度は立ちくらみもない。



「...ありがとーございました」


初対面がちらつくせいで素直にお礼を言うのはなんだか癪に障る。

そんな心境が顔に出ていたのか、

「感謝してるならもっとありがたそうな顔しろよ」

と笑われてしまった。

今だけなら気さくで優しい人に思えるから、もしかしたらあの日の悪魔は別人だったんじゃないかと思うけど、あの最低な態度も同一人物なんだよなぁ。


「じゃあ、私着替えるから」

「おう」


体育館の前で別れて、更衣室へ着替えに行く。

いちいち着替えるの面倒だけど、汗かいたジャージで帰るのも嫌だしなぁ。

緒方くんが掃除してくれている間ゆっくり過ごせたおかげか、体はだいぶ楽になっていた。

それでも明日は筋肉痛だろうと思いながら服を着る。

唯一の救いは明日が休みなことかな。

1日ベッドで漫画でも読んで過ごそうと決意しながら更衣室を出た。

片付けをしている野球部を眺めながらのんびり正門に向かって歩いていると、門に寄りかかって携帯を触っている人物を見て慌てて駆け寄る。


「え、何でここにいるの?!」

「何でって、帰るぞって言っただろ」

「いや、体育館の鍵閉めるから出ろって意味だと思って...」


時計を見れば、別れてからゆうに20分近く経っている。

待たせてるってわかってたらもっと急いで準備したのに!

いやそもそも何で一緒に帰ることになってるの?一緒に帰る理由ないよね?

と頭の中で大騒ぎをしていると、緒方くんは気にした風もなく歩き出した。

慌てて一緒に歩き出してから、何でついて行ったのか後悔する。


今更別々に帰ろうとも言い出せないし困ったなーー。