だが、篠島くんは何かと私に絡んでくる。
私がタコさんウインナーの入ったママの手作りお弁当食べていても、休み時間に物思いにふけていても。
 篠島くんが私を気にかけてくれることは嬉しいけれど、今だけは本当に放っておいてほしい。

 未だに空席として残された健斗が座っていた席は当たり前だけどもうすっかり冷たくなって、健斗がそこにいたことが嘘みたいに感じられる。

「もう忘れなよ。あんな奴のこと。何も言わずにいなくなるなんて友だちじゃねぇ〜じゃん」
みんなが帰った放課後の教室で、健斗の使っていた机に顔をくっつけていた私を上から覗き込むようにして篠島くんはそう言った。

「…ぃで。」
私は声にならない声で言う。
「え?」
その言葉は当然篠島くんには届いたはずなくて、彼はもう一度私がその言葉を言うよう聞き返す。
私は思いっきり息を吸い込んで大きな声を出した。

「健斗を悪く言わないで」

私の精一杯の叫びだった。

私は健斗に怒ってるわけじゃない。
ただ寂しいんだ。だから、大好きな健斗を悪いなんて言ってほしくない。

私が突然大きな声を出したから、篠島くんは狼狽していた。

「でも。俺は許せない。秋山さんにそんな顔させる奴のことなんか。」

そうか、同じことなんだ。

健斗を悪くいう篠島くんに腹が立ってしまうのと同じように、篠島くんも、健斗に腹を立てているんだ。

「ごめんなさい。大きな声を出して。」

「俺も、ごめん。でも…秋山さんがずっとそんなふうな顔しているのは嫌なんだ。」

窓から夕日の光が教室に差し込む。

黒板や机に反射した夕日の光が少し眩しかった。

「篠島くんは優しいね。」

私は少しだけ広角を上げて笑ってみせる。

「誰にでもこうなわけじゃない。秋山さんだから。だよ。」