反応したうつ向いたままの愛深は,泣きそうな瞳をしている。

心の中では,無理矢理に笑っているんだろうか。



「私,あの人に嫌われてたの……違うか。あの人を始めとした10人じゃくの人たちに」



そう,なんて相槌をするつもりにはなれなかった。

愛深の話を聞いてからじゃないと,何を言う気分にもなれない。

愛深は,誰かを嫌えるような人間には見えないから。

自分に向けられるその感情は,きっと誰よりも効果的で,痛いんじゃないかと思えるから。



「私はあの人の事嫌いな訳じゃなくて,どっちかっていうと好きなんだよ……
私ね? 予定係だったときによくミスをしたんだけど,あの人はそれに一番に気付いて私の代わりに声を挙げてくれたりしたの」




ほら,真ん中の話をする前に,俺が何を言う前に。

勝手に庇って,予防線を張る。

それになんの意味があるだろう。

何を聞いても,俺はさっきの男に好きも嫌いもないのに。

それを言うことは,言い話じゃないって余計に知らしめるだけなのに。