「昨日の,誰」



俺が,1番気にしていたこと。



「昨日?」

「一緒にいたでしょ,男と」

「前言ってた幼馴染みだよ」

「すきなの?」



あんな嫉妬みたいな,それは勘違いだって,言い聞かせたかった。

愛深も,そうならそうで良いんだって,別に関係ないんだって,思いたかった。



「っなんでそうなるの!!」



その愛深を傷つける言葉だったことに,怒鳴られて初めて気がつく。

驚いて,ハッとして。

愛深を見ると,その瞳は揺れていた。

じんわりと罪悪感が広がる。

そんなつもりじゃ,なかったのに。

自分でも,それは言い訳にしか聞こえなかった。

雫がこぼれないように,目をパチパチとして堪えるその姿は,誰が見ても可哀想で,健気。

怒鳴るなんて慣れていないであろう愛深は肩を揺らしたあとすぐに落ち着いて,ゆっくりと瞳を落ち着ける。

そして考えるように俺を見た。

言葉がまとまったのか,愛深は慎重に口を開く。



「普段は気を使って言わないけど,私は暁くんが好きだよ。だから会いに行ってるの」



好きだとストレートに紡ぐその唇が,瞳が。

俺には少し,まぶしい。



「…ごめん愛深。ちゃんと知ってる」



何も返さないまま,愛深が許してくれるからと。

一緒にいたいと望むのは愛深の方で,俺はしらないと愛深を見て見ぬふりしたまま。

そんな俺を受け入れて納得して,それでも好きだと言う痛々しさと強さを。

俺は,知ってる。



「そ,う」



知ってる,けど。

そう続けてしまう自分の弱さに,中途半端で不安げな愛深からの返事は,聞き逃してしまった。