「暁くん!」    
            
           
             
嬉しそうな笑顔と声。

これを聞いたのは,今日は初めてだったと振り返った。
          
           
              
「ど…」          
          
「ちょっと,来て」     
            
           
           
言いかけた愛深の腕をグイッと引く。

思いの外優しく出来なくて,愛深は真ん丸の目のままつんのめった。

                     
            
「え,と…どこに?」
             
「どこでもいいでしょ」
           
           
            
それでも文句1つ言わず,素直に不思議がる愛深。

淡白な返事にも

まぁ,それは確かに。 

とでも思ってそうな顔で頷いている。

ここでは話したくないが為の反応だったのに,それだけでも納得してしまうのが愛深だ。

これが俺じゃなくてもおなじなのかと,心配ついでにムカつく。

このままにしておくのは,癪すぎると思った。

一刻でも早く,愛深と話したい。

その感情が,強引さをつれて,すたすたとした歩調に現れる。
            
痛くないようにって,愛深への配慮はそれだけだった。
         
愛深は黙って俺に連れられた。