ー10年後。



「子供は子供で可愛いけど,圧倒的に愛深が足りない」



俺は何一つ変わらず,不満を口にして愛深を後ろから抱き締めた。

ソファーに座っていた愛深も,まんざらでもなく嬉しそうに腕へと手を添える。

そして,迷ったような反応をした後,俺を振り向き首へと手を回した。



「私も……その,唯兎くんにぎゅってしてもらえて嬉しい……」


ソファーのせいで,せっかくのハグの中に空間が生まれる。

物足りない。

もっと,だよ,愛深。



「……愛深はバカなところが何にも変わってないね。名前もいつまでたってもくん付けだし」

「え!?」



可愛すぎるところを,少しも自覚してない。

無自覚のまま,当たり前のように俺を煽る。

予想通りひどいと見上げる愛深の唇を,俺はちゅっと掠めるように奪った。

愛深が一瞬で静かになる。

何回だろうと,何年一緒にいようと,愛深はまだ俺に慣れてくれない。

名前呼びさえも。

だけどその表情や,俺のことが大好きだって分かる態度が変わらない限り,まあいいかと思えた。



「二人もすぐ起きちゃうから,今はこれで我慢してあげる。ただし今は,ね…? はぁー。あっぶないなほんと。ちゃんと覚悟しといてね?」



愛深は顔を真っ赤にしてこくこくとうなずく。

2人……それは愛深との間に生まれた宝物。

環境を完璧に出来るまで,そして愛深を一人占めしたい気持ちから,ずっと避妊をしていたけれど。

とうとう2人で話し合って,去年ようやく授かった子達だった。

双子で深兎(みと)と愛兎(まなと)。

女の子と男の子で,愛兎が兄,深兎が妹。

名前は2人で決めて,愛深の提案を採用した。

2人合わせて



『愛情深い兎』



なんだと。

俺みたいに育って欲しいって意味らしい。

名前を共有するみたいに,助け合いながら生きて欲しいという意味もある。

屈託なく言ったあの日の顔を忘れられない。

俺はすぐに,いいねって頷いた。

俺は俺みたいなんて嫌だから,少し違う意味で2人の幸せを願う。



『兎(俺)に深い愛情をくれた愛深みたいな人に育って』



そうゆうつもりで名前をつけた。

こんなにも幸せな今を作るのは,いつだって過去。

当たり前のようにいつかのメンバーを思い出した。

愛深も同じなのか,2ヶ月前で最後のあいつらとの日々を懐かしむような顔をしている。

愛深は眠っている2人に指を近づけて,愛深の指をきゅっと掴んだ小さな温もりに,きゅんとした表情で幸せを噛み締めていた。





   『恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~』
                     ーFin