「ねぇ,前から思ってたけど,弘愛深に近すぎ」



昼休み,弘と話している愛深を後ろから抱き締める。

今に始まったことじゃないし,今までなら何も言えなかったけど。



「はぁ,お前は全く。なんとなく予想してたけど,付き合い始めた途端それかよ。図々しくね? なぁ?」

「いや,そんな,べつに……」



今は彼氏なら,別でしょ。

そう堂々と阻止することが出来る。

愛深は恥じらい迷うように言葉を濁して,その様子を見た俺は弘へへへんと優越の顔を向けた。



「あぁ,愛深が急速に兄離れしていく……いつの間にか名前呼びになってるし……しくしく」



弘は愛深の兄なんかじゃないだろ,そう突っ込みながらも,名前への指摘は悪い気分じゃない。

愛深に告白した体育祭の日。



『他のやつは呼ぶのに?』



そう拗ねるように無理を言ってごり押しした結果だった。

演技のはずだったのに,普段から思っていたせいか,少しだけ本音が混じってしまったけれど。

そんな俺に絆されてくれるならなんでもいい。



「しくしくとか普通自分で言わない」

「うるさいっ!」



弘にツッコむと,何故か弘と一緒になって泣き真似をしていた健が声をあげる。



「あーまじうるさい,ねぇ愛深」

「ぁ,う」



そんなばかふたりに見せつけるように,俺は愛深を更に強く抱き締めた。

本当は,ただ俺がそうしたかっただけだけど。

もう隠さなきゃいけないような感情はひとつもない。

愛深が嫌がらない限り,好きにさせて貰おうと思う。