その短い間,俺は一言も喋りかけなかった。
そんな余裕もなくて,ずっと考えていた。
その決意が揺らがないように。
目的地に到着し,愛深を振り返るなり口を開く。
どくん。
突き刺すような痛みが,胸に広がった。
「愛深,すき。付き合って,欲しい」
一思いに,愛深にも突き刺すように告げる。
愛深は分かりやすく固まった。
それがどういう反応なのか判断しきれなくて,もどかしさに耐えながらも愛深の言葉を待つ。
初めて使う言葉に,顔が,火を噴くように熱かった。
「え……? 今,なんて……」
戸惑う愛深に,意を決してもう一度告げる。
今度は疑問すら残らないよう,言葉を変えて。
「愛深が,好きだよ。だから……付き合って」
愛深が,恥ずかしそうに一度俺から視線を外す。
唇を結んで,愛深は答えた。
「……はい」
やっと気を抜いて,ほっとして俺はいつかと同じ場所に腰を下ろす。
その横に座った愛深は,まだ実感がわかないようで。
俺も初めて,声をかけた。
「丸く収まって良かった」
もちろん,慧の事だった。
愛深には大事な幼馴染みだし,変にこじれるとしたら関わるのが下手な俺のせいだから。
「ふふっやっぱりやさしいね」
何を思ったのか,愛深が俺を見て笑う。
「それはそれとして」
頭と口が繋がったかのように言葉が出て。
ーごしごし
俺は愛深のおでこを,出来るだけ汚れていない箇所の服の袖でぬぐう。
「……いまここにしたら慧と間接キスしたことになる? うざっ。すっごい腹立つ」
突如嫌なことに気がついて,ちょっとじゃないムカつきが生じた。
更にごしごしと,愛深のおでこを擦る。
そして
ーちゅ
おでこにてを置いたまま,俺はもっと下を目指した。
「ふぇっ?!」
目の前でじわじわと広がる目。
もっと見ていたいと思ったけど,言えるうちに言わなきゃ行けないことがある。
「せめてここは誰にも許しちゃダメだから。体育ん時,慧が愛深のところに走っていった時も,まじで焦ったし」
もう,あんな思いはさせないで。
俺の,彼女になるなら。