「今度はなに。もう言いたいことなんて無いんじゃないの」

「あるよ。ある。いっぱい」



きゅっと蛇口を捻って,慧はあちーと溢しながら,傷より先に顔を洗った。



「唯兎。唯兎は聞いてなかったかもしれないけど,俺,ちゃんと愛深にいったよ」



知ってる。

聞いてなくても,見てたから。



「フラれちゃった」



悲しそうに,そしてそれを隠すように,慧が笑う。

顔を洗ったのは,暑いからでもスッキリしたいからでもなくて,その顔を隠すためだったのかもしれない。



「唯兎は告わないの」



それは怒っているわけでも,急かしているわけでも,はたまた単なる疑問でもなくて。

背中を押すように聞こえた。



「好きなんでしょ,愛深のこと」



無駄に流れ続けていた水を,またきゅっと蛇口を捻って慧が止める。



「……好きだよ」



観念するように言葉にすれば



「ほらね」



慧がそう満足したように満面の笑みで返した。