昼食や休憩,雑談を終え,全員が生徒用テントに戻る。




「じゃあね」

「うん,頑張って」



リレーの準備に向かう慧を,健や弘,愛深のそれぞれが応援の言葉をかけて,見送った。



『位置についてー』



係の女子の声。

ーパパンッ

特徴的なピストルの音で1年生が走り出す。

走順は,1年生,3年生,2年生。

その中でも,慧は……俺たち緑軍のアンカーだった。

白熱する最後の試合に,皆息を殺して,ハラハラと見守っている。

ーバトンが慧に渡った。

速い。

他の人よりも格段に。

慧は早かった。



「あっ」



そう声をあげたのは誰だっただろうか。

残り半分を前に,慧が体勢を崩す。

元々が慧よりも早いスタートだったため,唯一慧に食いついて走っていた選手が,慧を抜かそうとして足が接触したせいだった。

仲良くもなんともないのに,舌打ちしそうになる。



「慧!」



愛深が声を張り上げると,慧は目をカッと開く。

そして転倒の勢いのまま前に転がると,また走り出した。

膝と頭が地面に擦れるのを,一切気にしない動きだった。

場が盛り上がる。

係の男子の実況も,なにも聞こえないかのように,愛深は一瞬も慧を見逃さず目を開いていた。

俺もその最後の瞬間だけは慧を見る。



ーパパンッ



少し差をつけてゴールしたのは,慧の方だった。



「は,はぁぁぁ」



安心して脱力したのか,愛深はへなへなと小さくなる。

そして間も無く,開閉式が始まり,それも終わると弘や健が慧の元へ走った。