俺と勝負した後の足でも,慧は直ぐに50m向こうに辿り着いた。

俺はゆっくりと歩きながら,その様子を追う。

いつも通り,溌剌に,いつもと違う覚悟をもって。

慧は愛深の元へ駆けていった。

ざわめきが広がっていくのを遠目に見る。

すぐに,もう告ったのが伝わってきた。

どうなったのだろう,そんなことは分からない。

ただ,慧は俺には出来ないことをしたのだと,それだけは事実だった。

あんな人前で,自分を曲げずに伝えた。

持ち掛けられた勝負に勝ったのは俺なのに。

本当に負けたのは,俺の方だと,惨めな気持ちになる。

愛深はまだ,俺に笑ってくれるかな。