「おでこにキスは照れるよね~」



驚いた俺の横で,愛深が大きく震えた。

あわあわと,口を塞ごうと動く。



「ちっ違うからね,暁くん! 年長さん,年長さんの時の話だから! おままごとの延長で,慧が褒めて欲しがった時の」



結局1番の優先順位は俺なのか,何も言っていないのに弁解を始める愛深は,グリンと慧を見た。



「慧は,褒めてほしんだよね!? これでどう!?」



背伸びをして,わしゃわしゃと慧の頭を撫でる。

それはそれで,何も解決していないことに,愛深は一切気付かない。



「うん,ありがと。愛深に褒められると昔から,なんでか元気でる」



慧は素直に喜んで,今すぐ愛深を連れ出したい気持ちで一杯になる。



「そう?」



と尋ねた愛深に,でも,と慧は続けた。



「昨日も思ったけど,その顔,止めた方がいいよ? 使ったことないから分かんないけど,そそる? から。あの辺の男が。気を付けてね?」



指された方向には,異様に慌てる男子数名が。

あいつらは纏めて,俺のブラックリスト行き。

ムカつくから,絶対に忘れない。



「赤くして,涙ためるの。今みたいに見上げるのはもっと良くないと思う」



更に理解させようと,真面目な顔で具体的に口にした慧。

それでも意味の分からない愛深は,片眉を上げていた。

その腕を,ぐいっと引く。



「……授業始まる」



あの辺の男が,なんて関係ない風な口ぶりだけど。

慧だって,俺からしたら例外じゃない。

警告してくれるのはありがたいけど,それが分かる時点で慧も敵。

愛深に油断させていい人間なんかじゃない。

もっと直接的に,牽制できたらいいのに。

俺には全く,向いてなさそうだった。