そういって転校生は人懐っこい笑みで笑う。

天野 慧。

俺は口の中で呟いて,脳にいれた。

女子ウケは良い。

頭に響く黄色の声に,俺は耳を塞ぎたくなる。

男子も,面白がっていて,不満げなのは俺だけに見えた。

名前まで聞いた愛深は突然,あぁと思い出したような仕草をして。



「慧……くん?」

「そうだよ! 愛深っ」



嬉しそうにそういい,一層強く私を抱き締める慧を,すんなりと受け入れる表情になるの。

で,その慧くんって,愛深のなんなの?



「慧,う……くるしい」

「あっごめん」



気になる俺を放置して,愛深と慧はそんなやりとりをした。

あっさり引き下がって,ようやく終わったかと思えば,慧は更にもう一度ふわりと愛深を抱き締める。



「あー。お前らもういいわそれで。で? 青野知り合い?」



適当らしい担任の質問に,愛深も慧を受け止めながら答えた。



「はい。小さい時ご近所さんで」



それってつまり,ほぼ他人。

そう思わずにいられない俺の前で,ね? と愛深が落ち着いたらしい慧に声をかける。

まるで,大事な弟にでもするように。

ならばと口を挟もうとした俺の前で



「…んっ,ひゃぁ?!」

「ちょっお前それはまじ」



事件が起きた。

焦った声の先生と,ざわめく教室。

男子の視線に,愛深が大きく晒された。