ずっと1人で袖にいたのかと思うと,羨ましいとすら思う。

愛深は逆なのか,気の毒そうな顔でステージを見ていた。



『えと,○○から来ました。よろしく』



透き通るような声に女子の控えめな,興奮した声が聞こえる。

うるさい。

つまり,俺の後ろはめんどくさいやつに分類される。

愛深はどうなんだろうと気になってみれば,静かに首をかしげていた。

何のアクションもない,その静かな様子を意外に思う。

あんな人なのかと,多少興味を示しそうなのに。

今の愛深は他に気を取られているように見えた。



「なぁ,あいつじゃね? 唯兎の後ろ」

「やっぱりそう思う?」



健くんがごく自然に声をかけて,愛深も当たり前のように頭を寄せる。

さっきまで爆睡していたが,空気が変わったのを察して目を覚ました現金な男である健に,俺はもう少し寝てればいいのにと思った。



「な,どーおもう? 唯兎」

「別に,どうも思わないけど」



心底どうでもいいと思いながら答えると,だよなと言う顔で笑う健。



「ははっやっぱり」



知った風なその口調に俺がイラッとした表情をそのまま見せると,健はしゃべるのを止めた。

一応空気は読めるらしい。



「なー,名前なんて言うんだろーな~」



代わりに愛深に話しかける。

転校生がよほど気になるようだったけれど,前言は撤回しようと思った。