健に言われたことが俺の耳に入るのが嫌なのか,愛深はしきりに俺を気にしながら話題を変える。



「そんなことないよ,えっと,健くんは暁くんと知り合いなの?」



苦し紛れではあったものの,健は首をかしげて



「いや?」 「そんなやつ知らない」



俺と同時に否定した。

こんな変なやつ,知るわけがない。

勝手に馴れ馴れしく呼び捨てされているだけ。

顔すら今日はじめて認識した程度。

 

「え?」



そのダブルの否定に困惑した愛深は



「あはは」



下手くそな笑みで,全てを無かったことにした。



「ってか唯兎冷たくね?」



突然ふられる話題。

冷たくなんか無い。

ただ初対面で勝手に呼び捨てするようなやつと,話したくないだけ。

普段だって,特別自分から口を開くことなんて無い。



「暁くんはそれがデフォルトだし,冷たいとは思わないけど?」



愛深が代弁すると



「いーや違うね。お前あれだろ? 俺が愛深のこと可愛いとか言ったからだろ」



やけに確信めいた顔で俺を見る健。

俺は何も答えず,少し目線を逸らした。



「まぁ,あれだ。恋愛的な意味じゃないから仲良くしようぜ」

「れって,当たり前でしょう?!」



また戻そうとした俺の前で,愛深は声を落として張る。



「なんで」

「いや,その……私を好きになる人なんているわけないじゃん?」



真顔で尋ね返した健に,愛深は逆に困惑して。

声をすぼめながら髪を弄る。

健と俺は,ほぼ同時に眉を潜めた。