いつのまにか、雪が降っていた。
 
私は教室の窓を少しだけ開けて、
右手を冷たい外気の中に差し出してみる。

冬の夕方の澄んだ空気が、効きすぎた暖房で火照っていた私の身体をひんやりと撫でた。

私は雪に触りたくて、体を少し窓の外に乗り出して、腕を思いっきり伸ばす。

ギリギリまで伸ばした指先に、ゆらゆらと舞い降りてきた雪の一片が触れて、儚く溶けた。

「雪って、恋に似てるよね」

私の後ろで、そう呟いたのは八尋だ。

八尋は、自分の席で机に頬杖をついて、雪にはしゃいでいる私のことを見ていた。

「どうして?」

私がそう訊いたら八尋は、

「触ると、溶けちゃうから」

って冗談みたいに言って、少し笑った。


私と八尋が放課後の教室に二人きりで居残って、お喋りするのはいつものことだ。

幼馴染みの私達は、いつも一緒にいる。

去年の冬も、一昨年の冬も、こうやって教室の窓から雪が降る景色を二人で眺めていた。

私はふいに八尋に見られているのが恥ずかしくなって、慌てて視線を逸らした。

いつからだろう?

私が八尋のことを異性として……恋愛対象として意識するようになったのは。

八尋が優しく微笑んで私のことを見てくれる時、胸の奥の方が熱くなる……。

その気持ちが『恋』なんだと気がついたのは、一体いつから?

八尋と私の関係は、幼馴染みで親友。

ずっとそう思っていたのに。

私はいつの間にか、八尋に初めての恋を捧げていた 。