「はい、これ忘れ物でしょ」
「っ」
何事もなかったかのように胡散臭い笑みと一緒にブレザーを渡された。
「そんな顔すんなよ~、俺とのキスとか光栄だろ」
「はあ? ぜんっぜん、光栄じゃないよっ、わたし、好きな人いるのに!………あ、」
しまった、余計なこと言っちゃった。
あわてて口を噤んだけど。
「へぇ、で?」
興味なさそうに低い声を落とした新谷くんが
「好きとか愛とか知らねぇの、俺」
「っ…」
冷めきった瞳を細めて薄く笑う。
───やっぱり、こんな人がわたしのファーストキスだなんて
「さいあく」
「はっ、ずいぶん生意気だねぇ、上等じゃん」
「…わたし、帰る」
これ以上一緒にいると気分を逆撫でされそう。最後に新谷くんを心の底よりもっと底辺から睨みつけてやった。
「気をつけろよ~、外、雨だから」
皮肉めいた笑みで手を振られ、早足で外へ出れば、新谷くんの言ったとおり、空からはわたしの嫌いな雨が降っていた。