「やめろ、それ」
「…え、」
「こっち見んな、余裕なくなるから」
「っ…」
ずるい、そんな素振りまるで見せないくせに、こういう時だけ、ほんとにずるい。
見るなって言うのに、沙葉って優しく呼ぶから、反応に困る。
定まらない視線のなかで、今日で一番短いキスが落とされた。
「好き」
新谷くんが笑う。
わたしは目を逸らす。
「沙葉は?」
「…さあ」
「あー、言わねーなら、このまま離さないけど」
不器用で、めちゃくちゃ。
そんな、わたしだけの気だるげオオカミは、
やっぱり今日も、いじわるだ。
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