「わたし、先生に呼ばれてたんだった」


教卓の上にある健康観察簿、届けないと。



「俺をひとりにするの?この状況で?」

「だって…」

「まだ、俺の用事が済んでない」

「用事って?」



そう聞くと、細長い指先が頬に触れる。


わかりやすく反応したわたしの唇に、新谷くんの温度が重なった。


「こーいう用事」


3度目のキスだった。




角度を変えてもう一度被さってきそうな影をあわてて阻止する。



「ちょっと待って」

「待てない」

「んっ…」



どうしよう…。

身体中の熱が溢れかえってしまいそうなくらい、熱い。


肩を押した手のひらは新谷くんに包まれて逃げ場をなくす。


「……ぁ…っん」


お互いの吐息がぶつかって、頬まで火照ってくる。



聞く耳なんて、まるでなし。

こっちは心臓壊れそうなのに、新谷くんは慣れてそうでほんとにムカつく。


ようやく離れた新谷くんを見上げると、瞳が物欲しそうに歪められて、わたしは本能的に危険を察知する。



「やばい…」

「な、にが…」


「そーいう顔されると、めちゃくちゃ意地悪したいみたいだわ、俺」

「っおかしいよ」

「おかしいの、ぜんぶ沙葉のせいな」



もうだめなのに、先生が待ってるのに。

頭は簡単に引き寄せられ、新谷くんの熱で溶かされていく。



優しかった口づけがしだいに甘さを持って、少しずつ荒くなっていくけれど、わたしはしがみつくことで精一杯で。

時々離れる呼吸が与えられる隙間で、新谷くんを見つめる。