「新谷くん」
呼びかけて数秒、気だるげに上体を起こす新谷くん。
その瞳に、ひさしぶりに真正面から映れた気がする。
すぐに視線は外されたけど、いちいち傷ついてなんていられない。
わたしは、すかさず、手に持っていたクッキーを渡した。
「これ…」
先生が忘れ物だって言ってたから、そう並べるはずだった言葉は、あからさまにいやな顔をする新谷くんを見て、喉の奥に引っ込んでしまう。
長いまつ毛が気だるげに上を向いて、冷たい目が開く。
「…なに、彼方にでも渡せって?」
「は?」
急になんのこと…。
彼方くんにってなんで…。
「いい加減、未練たらしいことすんなよ」
「なに言ってるの?これは新谷くんので」
「は?俺に?」
「ちがっ」
「相変わらず、むちゃくちゃな思考回路だよね。彼方の気は引けないから、今度は俺と仲良くしようって?」