「ストップ、ストップ」


喧嘩っ早いサナちゃんだけど、腕っ節は非常にか弱いことをわたしは知っている。

小学生のころから、いじめっ子たちに突進しては負けて泣きじゃくってたし、新谷くんは喧嘩が強いとかいう噂だってあるんだから、さすがに止めなきゃ。

まぁ、あの噂も信じてないけど。



「とりあえず、落ちついて。新谷くんには、わたしがめちゃくちゃ怒ったから、もういいの」






サナちゃんを説得して教室に戻れば、朝から浴びてきた視線がまた降りそそいだ。


噂は瞬く間に広まったようで、至るところからわたしの名前が聞こえる。

声のトーンとか向けられる目からして、ぜったい、好意的なものじゃない…。



どうせ、新谷くんとどうだとか、彼方くんとどうだとか言われて、睨まれてるんだ。




「……、」


ふとドア付近に目をやると、少し不満そうな顔をした新谷くんと目が合った。



……なんだろう。

一瞬、眉を寄せるも、ずっと見ていることもできず、逸らしてしまう。
そして、もう一度視線を移すと、やっぱり、まだこっちを見ている新谷くん。



怒ってるようにも、そうじゃないようにも見えた表情が頭のなかをウロウロしながら、5限目がはじまった。