『大丈夫、僕が笑顔に変えてあげる』


自分に言われてるみたいで、胸が熱くなった。



『僕が笑うから、きみも笑おう。きみが笑えば、きみの周りにも笑顔が広がる。一緒に幸せになろう』



王子様が言うことは、なんでも信じた。

本物じゃなくてもいい。あの頃のわたしは、それくらいなにかに頼らなきゃ息をしてられなかった。



だから、ぜんぶ、言う通りにした。



泣いてしまうほっぺたを叩いて、鏡の前で笑顔の練習をした。
そうやってできた泣き笑いみたいな顔で帰ってきた家。

お父さんの驚いたような表情に、うまくできなかったかなって思った瞬間、それまでの暗い顔が嘘のように、優しく、笑ってくれた。

ほんとに嬉しくて嬉しくて、その日の夜、ひさしぶりに3人で食べた夕食の味は、たぶんずっと、忘れない。