けれど。
「あ、」
しまった。
至るところからの視線。
ひそひそ声。
どうやら注目を浴びてしまったらしい。
さすがにまずいと思い、押さえていた口元から手をどける。
「なにあの子、優星(ゆうせい)に気安く触るなんて」
「どういう関係?」
「やめなよー、優星くんはあんな地味女、眼中にないって」
あぁ、ほら。面倒なことになってきた。
モテる男子と噂になると、ほとんどの確率で女子の方が妬まれるんだから嫌気がさす。
ジロジロと、上から下まで、どこをそんな見るところがありますかってくらい、うんざりする視線に囲まれて…。
ていうか、……地味女って、軽くショック。
まぁ、派手女よりいいか。
って、そんなことどうでもいいよ。
今のでだいぶ女子を敵に回してしまった、どうしよう。
斜め後ろでは、サナちゃんが、どういう状況? って目で訴えてくる。
ごめん、サナちゃん。
今は説明する気にもなれないの。
それもこれも。
「大胆なことするねぇ」
今日もこっちの気なんて知らず、語尾ゆるゆるで楽しそうにくつくつ笑っている新谷くんのせいだ。