「え〜、無視?」



やっぱり聞き覚えしかないその声にバッと顔を上げる。


すると。







「っ……な、なっ」



薄々わかっていても、わかりたくなかった。


なんで。




「なんで、ここにいるの!?」




わたしの隣に座っていたのは、まぎれもなく、あの日、最悪な出会い方をした新谷くんだった。






夢かと思ってぎゅっと目を閉じてからもう一度開けてみたけど、変わらない。

あまりに驚いて無意識に後ずさりした足がイスの角に当たって、ぎーっとイヤな音が響いた。







ああああ、なんてことだ。

ありえない、こんな状況。




「なんではないだろ、ここにいんのは俺も同じクラスだから」



タレ目をさらに垂らして余裕げに笑ってる。

これだからムカつくんだ、新谷くんは。




「ていうかさ、同じクラスで隣の席とか、もう俺ら運命じゃん、ね?」

「まったく」



ふん、なにが運命だ。悪運だ。



「は、相変わらず冷たいね〜。
ま、仲良くしよーよ、なぁ、沙葉ちゃん?」



カバンから取り出している途中だった教科書の裏に書いてあるわたしの名前を見た新谷くん。

すぐにひっくり返してバタンともう一度、机に置いた。




「絶対いや」

「そんなこと言ったって、俺ら唇同士が触れあっ…んん」



朝っぱらからなんてこと言うんだ!

あわてて新谷くんの口を手で封じる。