「ミホちゃん、まだ手痛む?」

店の奥で休んでいた私の元へ

心配そうな顔で少しシュンなった店長がきた

オーブンに触れた瞬間に手を引っ込めたから

全然大したやけどではなったが

心配性な店長が「いいから手を冷やして休め」と言って聞かないもんだから

有難く奥で休ませてもらった



最初は救急車を呼ぶと言い

焦ってケータイを持つと

警察の番号を入力しだすもんだから

流石にそれは全力で止めた

そんな店長の本気の小ボケのお陰で

左手の痛みはもう和らいでいた




「もう大丈夫ですよ、
心配かけてすみません」

私がそう伝えると店長は

イタズラを許してもらった犬のような顔で

「良かった」と安堵する

もういい歳したおじさんだけど



「じゃあミホちゃん、ほんと申し訳ないんだけど、1時間だけ1人で店番しておいてくれないかな。」





「今から仕入先の所に商品取りに行かなきゃ行けなくて」と呟く店長は

また申し訳なさそうにシュンとするから

なんだか私より小さくなったように見えた



「全然気にせず行ってきてください私1人で大丈夫なんで」

「ほんと!?じゃあすぐ行って帰ってくるからね。しんどかったら最悪お客さんきても出なくていいからね!!!!」


店長は私の痛まない方の手を取り、「オーブンには触らないこと」と

まるで私が幼稚園児かのように

何度も指切りげんまんをして急いで出ていった

出なくていいなんて流石にそれは出なきゃ私が居る意味ないじゃん(笑)

とツッコミを入れながらも

店長の優しさが身に染みる



流れに身を任せて始めたような1アルバイトに

こんなに優しくしてくれるなんて。



こんな幸せな環境で過ごせているのに

私は皆に何も返せていない

周りに優しすぎる人がいるから

余計自分の無能さが浮き彫りになる




自己嫌悪に苛まれ

またじわっと目に涙が広がった時


ーーーーーーカランカランーーーー

「こんばんは〜」




太陽みたいな彼がやってきた


涙で潤んだ目のせいであまり前は見えないけれど



こんばんはという全国共通の言葉であっても分かる

温かい独特な関西のイントネーション。




私は急いで表に出た