「キス」


ぽつり。

わざと呟いた言葉に。

無視すればいいのに。
はぁ?って顔をすればいいのに。


いつもよりも大げさに反応してこっちを見る水原に、俺はまた都合のいい幻想を抱く。


「されるかと思った?」

上がった口端はただの強がりだ。


「知らない!」

そう言ってまた課題に取り組み始めた水原の顔が、一瞬赤くなったのを俺は見逃さなかった。


いつもは耳にかけてる髪が落ちてるせいで、水原の顔は見えない。


本当ならその髪を掬い上げて、もう一回確認したい。


なぁ、少しだけ期待していいか?

いつもなんとなく嫌われてはいないと思って安心してた水原の表情、行動、全部が。

ポジティブに解釈すれば、好かれてるかもしれないと思えるようなモノだと。


そう、自惚れてもいいのか?


「はぁ」

心底呆れたような水原のため息に、変に湧き上がった頭が途端に冷めていく。


やべ。
今のはまじのやつだ。


「悪かったって。ごめん」
「……」

……やっぱ怒ったか?

「あれ、シカト?」
「……」
「おーい、聞こえてる?」


それ以降一切返って来なかった返事に、自惚れるのはまだ早いと自分に言い聞かせるのだった。