「あ、さっきの音」

言って、思い出す。


……未遂に終わっちゃったけど、キスしそうになったんだよね。


ぽんっと赤くなった顔を隠すように俯けば、もう一度ピロンっと瀬尾のスマホが鳴った。


「見なくていいの?」

だらんと腕を下げたまま確認しないのを不思議に思えば、見るよ、と何とも気乗りしないような声で呟くのに、決して見ようとはしない。


そういえばさっきのため息も、スマホを見たせいなのかと今更ながらに思い当たる。


……誰からだろ?

あまり聞くものでもないとわかってるけど、そんな反応をされれば気にもなる。


「佑香からだから」

そう言って何ともなしに見せられたスマホに、読んでもいいのかな?と思いながら、おずおずと文字を追う。


『帰りにケーキよろしく』
『◯◯ってとこね。予約してるから間違えないで』


これがあの時の音の正体か……。

瀬尾がため息をついたのも少しわかるかも。


でもどこかほっこりとしてしまうって言ったら、瀬尾は呆れるかな。


三つ目は長々と瀬尾に対する不満が書いてあって、あんなに大人っぽい佑香さんの意外な一面に思わず笑いそうになる。