「言っとくけどこれ、ナンパじゃねーから。俺は年上専門、ガキには興味ない」
名前も年齢も知らない人。
だけど、それって今日にも分かることだ。
時間なんかいっぱいあるんだから。
限られた命だとしても、それでも死のうとしていた私からすれば時間はいっぱいある。
「だったら…これって、なんですか?」
「……暇つぶし。20時40分の」
「え、今は21時近いけど…」
「お前にほうじ茶もらったときの時間だよ」
良い人とか、悪い人とか。
そんな2つの言葉だけで人って表せないし、そんなことしちゃ駄目なんだろうけど。
この人に出会えた今日の私の運勢は上位だったんだろうなぁとは思う。
「ふふっ、似たような名前の芸人さん居るね」
「……笑った顔はギリ見れるわ」
痛々しくも微笑んだ男子高校生。
聞き返すよりも先に「気をつけて帰れよ」と、そう言って住宅街へ消えた。
「……“京”って、キョウ…?」
家に帰ってから表記された名前に迷って送信してみると、わりとすぐに返信がきた。
“ケイ、な。よく間違えられる”
ぱらついた雪、半月が顔を出す夜空。
「160円にしては……高いかも。」
それは20:40の、素敵な暇つぶし。