「まぁ時には合わせることも大切だと思うけど俺は。じゃねぇと、ただのわがまま娘になっていつか反感買うぞ」
「…別にいいです」
ふっと、笑ってくれた。
そんな今になって気づいた。
当たり前のように毎日手にしているものを1度も触ってないってこと。
スマホ……いじってすらない。
それでも全然困らなかったし、必要じゃなかった。
それはこうして同じ温度間で会話を交わしてくれる人がいたから。
「んじゃ俺、腹減ったし寒ぃからそろそろ帰るわ」
「あっ、あの、」
引き留めた理由はほうじ茶代を払って欲しいからじゃない。
そんなこと、どーでもよくなってた。
そうじゃなくて、このままこの人に会えなくなる方が嫌だったから。
「あ、ほうじ茶か。160円だっけ」
この町に住んでるんですか、名前はなんて言うんですか。
ここのコンビニにはよく来るんですか。
聞かなきゃ、聞かなかったら絶対に後悔することになる。
それなのに……言えない。
「いま小銭なくてさ俺。だから今度でいい?」
「え、今度…?」
「あぁ、だからそれまで這いつくばってでも生きとけ」
160円の代わりに差し出されたスマートフォン。
流れるまま私も取り出して、メッセージアプリを起動。